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2020年7月15日

特別定額給付金のオンライン申請について②:マイナンバーカードに関する新たな展開のヒント

前回、特別定額給付金のオンライン申請について、様々課題を挙げてきました。続いて、今回の課題を通じて得られた、マイナンバーカード普及のヒント、さらに少し踏み込んで、様々お叱りを受けることも覚悟で、その「機会」について、整理したいと思います。

「給付のためなら」ということで、マイナンバーカードの利用ニーズが高まった

まず、シンプルに、今回、特別定額給付金を少しでも早く欲しいというニーズから、マイナンバーカードの利用、また新たな申請が急激に増えました。こうした状況をみても、今回の件を通じて、国民は、国や自治体からお金をもらえる例を経験し、そのためであれば、マイナンバーカードを利用しようと思う、という流れの好例になったと私は思います。

今まで、マイナンバーカードを持っていても、どんなメリットがあるか、国民にとっては今一つ分かりにくいという声がありました。
一方、今回のような分かりやすいメリットがあれば、国民も、散々議論されてきたプライバシーに関する不安を振り切ってでも、マイナンバーカードを作る、そして活用する可能性があることがはっきり分かったと思います。

また、今回は、「お金」と「早い」、そして「楽」という3つのメリットの組み合わせです。残念ながら、必ずしも「早い」「楽」という訳にはいきませんでしたが、こうした基本的なメリットの積み上げは、今後のマイナンバーカード普及の基本となることは、間違いないと思います。

申請者に関する突合について(JPKIシリアル番号活用の機会)

今回、様々な課題もありましたが、逆に私が大きな機会を感じたのが、マイナンバーカードのJPKIにあるシリアル番号です。
この部分、少し技術的な内容が多いですが、ご容赦頂き、説明してみたいと思います。

公的個人認証の利用者証明のシリアル番号はマイナンバーと同様、個人を特定するIDとして機能します。
今回の特別定額給付金では、利用者証明のシリアル番号と自治体が保有する宛名番号とを突合することで、個人の特定とその世帯の特定を行えた自治体がいくつかありました。
今回のシリアル番号利用は、自治体側にとっては、急に決まった話で、しかも、シリアル番号の本格的な活用は今回が初めての自治体が多く、それを使う仕組みが整っていなかったため、様々なトラブルが生じました。
一方ここで留意すべき点は、今回は時間が無く、仕組みも体制も整っていなかったのですが、もし次の機会に向けてきちんと仕組みを整えれば、よりスムースに活用できる可能性がある、という事です。

さらにその仕組みについても、今回、その具体的な方法が見えてきています。例えば、住民票のコンビニ交付の仕組みを応用し、CSサーバーを活用してシリアル番号を入手して、シリアル番号と宛名番号の突合を行っている自治体がすでに存在しています。
今後マイナンバーカードを用いるのであれば、上記のような、JPKIのシリアル番号と自治体の宛名番号を突合する仕組みを、国が自治体に配布することも検討してみたらどうでしょうか。
そうすると、今までマイナンバーだけでは実現できなった、日本のデジタルガバメントの仕組みとして、JPKIのシリアル番号が使える、という可能性が産まれてくるのではないかと思います。

ちなみに、JPKIには5年という期限があり、シリアル番号にもこの期限がついてきます。ここの議論は、もう少し深堀が必要ですが、私自身は、むしろ「期限がある(揮発化する)」方が、マイナンバーと違い、個人情報に対する国民の心配は軽減されるのではと思います。(メリットになりうる)
(※JPKIの期限についても、公開鍵暗号方式の危殆化の要因を踏まえて、より議論が出来る余地もある)

さらに、JPKIシリアル番号に、給付用の銀行口座を紐づける案も検討可能と思います。給付用銀行口座を国が設定するか、自治体が設定するかという議論だけではなく、”民が設定する”という可能性も出てくるのではないかと思います。この部分は、もう少し議論が必要なので、別の機会にお話してみようと思います。

批判だけでは進まない。これからの取り組みが正念場

以上、技術面、法律面、そして業務フロー面などで、検討すべき要素が多々ありますが、今回の特別定額給付金のオンライン申請に関する経験から得られた、マイナンバーカード活用に関するヒント、可能性について、書いてみました。

今回の特別定額給付金のオンライン申請に関しては、連日の新聞報道等で、マイナンバーカードとあわせて課題が指摘されています。
一方、私も一部知っている、この開発に携わった政府の皆様、システム会社の皆様が、寝食を忘れた過酷な対応をなさったことを思うと心が痛みます。マイナンバーカードは、我が国のデジタルガバメントを進めていく上で、きわめて大切な要素であり、私自身は、日本のデジタルガバメント推進の最後のチャンスが到来していると考えています。
課題を指摘するだけでなく、いかにその課題を解決し乗り越えて、マイナンバーカードを我が国のデジタルガバメント推進の基盤とするか、常に解決の機会もあわせて、考えていくべきと思います。


特別定額給付金のオンライン申請について①~課題と可能性

安井秀行(アスコエパートナーズ)
この記事を書いたのは:

株式会社アスコエパートナーズ 代表取締役社長 NPO団体 アスコエ代表 一般社団法人ユニバーサルメニュー普及協会 理事 慶応義塾大学 政策・メディア研究科 非常勤講師 内閣官房「新戦略推進専門調査会 デジタル・ガバメント分科会」委員 内閣官房「地方官民データ活用推進計画に関する委員会」委員 マッキンゼー・アンド・カンパニー・ジャパン、株式会社DBMG取締役を経て、現職。企業だけでなく、行政等公的機関も含めたウェブ、マーケティング戦略関連の幅広いコンサルティングを行っている。

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