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2021年6月19日

「スマートシティ」に取り組むべき背景と期待される効果【スマートシティ①】

「スマートシティ」は、IoTやAIなどの先端技術をまちづくりに取り入れ、都市や地域が直面する課題の解決と市民一人ひとりに寄り添ったサービスを提供するための取り組みです。ここでは、日本がスマートシティに取り組むべき背景と期待される効果についてご紹介します。

スマートシティとは

スマートシティとは
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「超スマート社会」実現への取り組み「Society 5.0」を推進する場

人々が安心して暮らし、働くことができる魅力的なまちづくりを進めるうえで、急速に進む高齢化や人口減少、地域間の格差、大規模災害の多発、新たな感染症リスクなど、多くの社会課題に直面することになります。日本政府は、こうした諸課題を乗り越えて、日本社会が目指すべき未来社会の姿を「超スマート社会」と名付け、その実現に向けた取り組みとして「Society 5.0」を推進しています。「スマートシティ」は、IoTやAIなどの先端技術をまちづくりに取り入れ、社会課題の解決と新たな価値の創出を両立させる「Society 5.0」を先行的に推進する場となります。

「一人ひとりに寄り添うサービス提供」のための課題解決と価値創造

「スマートシティ」があるべき姿は、それぞれの都市や地域が抱える課題によってさまざまですが、内閣府は以下のとおり定義しています。

【手段】ICT等の新技術や官民各種のデータを活用した市民一人一人に寄り添ったサービスの提供や、各種分野におけるマネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化等により

【動作】都市や地域が抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける

【状態】持続可能な都市や地域であり、Society 5.0の先行的な実現の場

スマートシティガイドブック2021.04 ver.1.00 |内閣府・総務省・経済産業省・国土交通省・スマートシティ官民連携プラットフォーム事務局

この定義のベースとなっているのが、次の3つの基本理念と5つの基本原則です。

「スマートシティ」の基本理念

市民(利用者)中心主義

人々の幸福度や健康、社会福祉の向上こそが、「スマートシティ」が目指す最大の目的です。行政や民間事業者などのサービスの提供者側が主導するのはなく、サービスの利用者である一般市民のみなさんが、自ら主体的に取り組めるものであることが重要です。

ビジョン・課題フォーカス

「スマートシティ」の取り組みを都市や地域に定着させ、持続可能なものとするためには、提供するサービスが、それぞれの都市や地域ごとのニーズをとらえたものでなければなりません。それぞれの都市や地域が抱える「課題の解決やビジョンの実現」にフォーカスして新技術を導入、活用することを基本に、スマートシティに取り組む必要があります。

分野間・都市間連携の重視

「スマートシティ」の実現に向けた取り組みは、すでに全国で着手されつつあるようです。しかしながらその多くは、限られた個別の分野や一部の都市内での取り組みに終始していて、分野や地域の枠を越えた横断的な取り組みや継続的な運営、サービス提供に至る例は多くありません。このことから、「スマートシティ」への各地での取り組みが、必ずしも市民の実感を伴うものにはなり得ていないという危惧が生じます。

このため、さまざまな分野のデータを横断的に活用することで、多くの都市が抱える複合的な課題にも対応可能な取り組みとして発展させ、あらゆる都市や地域で実装可能な全体最適な取り組みとすることが期待されます。また、広域的な課題への対応、地域間格差の解消、導入コストの削減などの点から、複数の地方公共団体による連携も重要になります。

「スマートシティ」の基本原則

公平性、包摂性の確保

「スマートシティ」が提供するサービスは、誰もが必要なときに同等のサービスを受けることができるものであるべきです。また、あらゆる企業や研究機関、市民団体等が主体的に参画し、地域の課題解決やビジョンの実現に取り組む必要があります。

プライバシーの確保

「スマートシティ」では、個々の利用者のニーズに応じた質の高いサービスを提供するために、個人情報を含めたパーソナルなデータの活用が不可欠となります。このため、「スマートシティ」における情報の取り扱いについては、個人情報の保護に関する法令の遵守や情報利用のための透明性の高いルールの確立など、利用者である市民の十分な理解と信頼のもと、市民のプライバシーの確保を徹底することが求められます。

相互運用性・オープン性・透明性の確保

全国各地に広がるスマートシティ化の取り組みを効率的に推進するためには、他の地域やシステムとの相互運用が必要です。そして誰もが必要に応じて、必要なデータを入手して活用することができるように、データの相互運用性を向上させ、オープンなデータ流通環境を構築する必要があるでしょう。同時に、それぞれの「スマートシティ化」の取り組みや意思決定のプロセスは、より透明性の高いものとするべきです。

セキュリティ・レジリエンシーの確保

「スマートシティ」を実現するためのシステム構築にあたっては、プライバシーの保護や安全性の確保、非常事態におけるシステムの継続性などに配慮して、適切なセキュリティ(安全性)とレジリエンシー(回復力)を確保することに注力しなければなりません。

運営面、資金面での持続可能性の確保

市民生活や都市機能を支える「スマートシティ」の実現にあたっては、その司令塔となる地方公共団体等とこれに参画する各種団体などが緊密に連携し、それぞれの役割を機動的に果たすことが求められます。同時に、安定した運営のための財源の確保など、持続可能性を堅持することが必要です。

「スマートシティ」をとりまく日本の事情

「スマートシティ」をとりまく日本の事情
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日本が抱える課題や環境変化

日本が「Society 5.0」を実現する「スマートシティ」に取り組んでいるのは、以下のような社会課題や環境変化が挙げられます。

少子高齢化・地方格差の進行

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、日本の総人口は2050年には1億192万人まで減少することが予測されています。一方、75歳以上の人口は増加を続け、2050年には2417万人となり、総人口に占める割合は2019年の14.7%から23.7%へと大幅な上昇が予測されています。このような人口の減少と少子高齢化の進行は、生産年齢人口の減少を招き、労働力不足がさらに顕著になっていきます。また、東京圏への人口集中も加速し、地域間格差の拡大が懸念されています。

自治体の財政負荷増、人員不足

人口減少や高齢化の進行によって、社会保障関連の費用は増加し、社会インフラの老朽化が進むことから、その維持管理や更新のためのコストも増大します。これらが地方自治体の財政を圧迫し、財政負担の増大を招くことになります。一方、地方公共団体における行政改革の推進により、地方公務員数は減少を続けていて、人口減少が進む2040年頃には、さらに小規模な職員数での行政運営が必要になる可能性が指摘されています。

災害の頻発化

洪水や土砂災害、地震や津波などの自然災害が頻発するようになり、それらの被害も激甚化しています。国土交通省の資料(都道府県別の災害リスクエリアに居住する人口)では、2050年の全国の災害リスクエリアに居住する人口は約7,187万人となり、総人口の約7割が、災害リスクにさらされることになると予測しています。

日本の二酸化炭素排出量は世界で5位

地球温暖化の原因となる温室効果ガスにはさまざまなものがありますが、なかでも二酸化炭素は温暖化への影響が大きなガスと言われています。この二酸化炭素排出量で、日本は世界で5番目に多い国(外務省発表)となっています。環境省による「温室効果ガス排出量速報値(2018年度)」の内訳を見ると、都市や地域の活動に由来する排出量が全体の5割を占めていることから、「スマートシティ化」による二酸化炭素排出量の削減が期待されます。

ライフスタイルの変化・オンライン活動の増加

情報通信技術の発展によって、モバイル機器によるインターネットの利用が進み、家にいながらにして買い物ができたり、ディスプレイを通して対面で会話を楽しんだり、会議や打ち合わせを行うことが可能になりました。外出や移動の頻度が減り、小売業の実店舗数が減少するなどの変化が見られるようになりました。こうした動きは、新型コロナウィルス対策として、ますます顕著になっています。

新技術の進展

IoTやセンシング技術の発展などによる情報流通の進化、5Gの登場による通信環境の高速・多機能化、AIによる分析・予測技術の高度化、自動車やロボットなどの自動制御技術の進展によって、これらの新技術を活用した新たなサービスの展開が期待されます。

「スマートシティ」の取り組みは世界規模で行われている

「スマートシティ」の取り組みを通して、市民一人ひとりに寄り添ったサービスが提供され、社会福祉の充実や人々の健康や幸福度の向上が目的となります。その効果は多岐に及びますが、内閣府発表の「スマートシティガイドブック2021.04 ver.1.00」では、以下のような効果を挙げています。

「スマートシティ」で期待される効果

「スマートシティ」で期待される効果
Smart city background with modern technology symbols isometric vector illustration

「スマートシティ」の取り組みを通して、市民一人ひとりに寄り添ったサービスが提供され、社会福祉の充実や人々の健康や幸福度の向上が目的となります。その効果は多岐に及びますが、内閣府発表の「スマートシティガイドブック2021.04 ver.1.00」では、以下のような効果を挙げています。

経済|持続的な都市経営・都市経済の実現

「スマートシティ」においては、高度なセンシング技術を用いて収集され、AIによって解析された情報をもとに、市民や事業者向けの多様で有用なサービスがタイムリーに創出され、提供されることになります。これらのサービスを活用することによって、地域経済が活性化する効果が期待できます。

安全で快適なまちづくりが推進されることによって、多くの市民や来街者が行き交い、にぎわいが生まれ、人々の消費行動やサービスの利用によって、地域の経済が循環するとともに、交流を通じたイノベーションが生みだされることでしょう。そして、企業や行政におけるシステムの効率化によって、生産性の高い都市となります。

社会|安全で質の高い市民生活・都市活動の実現

「スマートシティ」では、あらゆる都市サービスが効率化され、市民や事業者に寄り添ったかたちで提供されることによって、行政手続きをはじめ、日々の移動や観光、購買行動、医療や健康のためのサービスを、すべての市民が公平に享受することができ、便利で豊かな生活を送ることができるようになります。

災害や感染症拡大などの非常事態が発生しても、ビッグデータを活用した対応策が講じられ、新しい日常や働きの場が即応して提供されるなど、不安のない安全な暮らしを実現します。

環境|環境負荷の低い都市・地域の実現

あらゆる産業分野や人々の日常的な活動の場面で、実際のヒトやモノの動きに適応したかたちでエネルギーや資源の利用が最適化され、カーボンニュートラルの実現を支えます。このようにスマートシティの取り組みは、国連が提唱するSDGsを達成するための重要な政策ツールでもあるのです。

日本社会はいま、少子高齢化や地域間の格差、災害の頻発など、多くの課題に直面しています。これらの課題を乗り越えて、目指すべき未来社会を実現するために「スマートシティ」の推進が求められています。国や地方自治体ばかりではなく、あらゆる企業や研究機関、市民団体等が主体的に参画することが「スマートシティ」を実現する大きな力となります。新しい未来社会の創設に向けて、一市民である私たち一人ひとりの想いこそが、その起点となるのではないでしょうか。

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