行政DXの鍵とは?行政改革の祖が元職員の声から読み解く(上)

行政DXデジタルトランスフォーメーション

著者:上山信一 | 慶應大学総合政策学部教授
本記事はYahoo!ニュースに寄稿された記事を転載したものです。

行政DXの鍵は、現場公務員が効用を感じることー GOVテック企業アスコエの元公務員にきく(上)


 デジタル庁構想が出されて以来、政府・自治体のDX(デジタルトランスフォーメーション)への関心が高まっている。しかし政府・自治体でデジタル化を推進できる公務員は極端に不足している。たまに民間人材の登用でITの専門家が役所にやってくるが役所特有の論理やルールが理解できず、組織の中で浮いてしまう例も多い。一方、ハイテクベンチャーの人たちには役所の意思決定の仕方や伝統的な稟議などのやり方がなかなか理解できない。

 そこで元公務員で現在はGov-tech分野のベンチャーで働く二人のエキスパートにどうすれば行政DXが進むかインタビューをした(どちらも株式会社「アスコエパートナーズ」社員で働く元公務員)。

〇行政DXを阻む2つの壁

 行政機関のDXを巡っては2つの大きな問題があるようだ。第1は行政機関に総じてデジタルの知識やリテラシーをもった人材が不足しているという問題。第2に行政機関のDXを支援する民間企業の側も行政機関特有の行動様式(利益よりも説明責任、年度主義、議会重視、情報公開の原則など)をなかなか理解できないという問題である。だから政治主導で「行政DXをやる」と決めて民間からITエンジニアを数人役所に入れたくらいではなかなか前に進まない。行政側の文化・意識改革が必要だし、逆に民間から行く人も行政機関特有の組織のルールやスタイルを理解しないと仕事が進まない。

 そこで今回は官民の壁を自ら超えて、民間のベンチャーで仕事をする元公務員二名に話を聞き、行政機関はどのようにこの二つの壁を超えればいいのか考察してみたい。実は筆者も元公務員でマッキンゼーで修業をしたのち、行政組織の民営化や経営改革の支援をしてきた。官民両方を経験してきたからこそ見える課題が多々あった。DXにおいても同じではないか。そこでGOVテックのトップ企業であるアスコエ・パートナーズ社で働く元公務員2名にインタビューをし、行政DXを進めるヒントを伺った。

①Aさん:市役所から転職して感じていること

Q. 現在はアスコエでどのような仕事をしているのですか?

― 主に自治体のWebページを制作しています。先日もある自治体から「公共施設の空き情報をWeb上で公開したい」というご相談がありました。自治体からは施設名を横軸、日付を縦軸で見せる表形式のイメージをいただきました。しかしそれだとスマートフォンで見た際に表が画面におさまらないので見づらくなります。そこで、ぱっとみて分かりやすいスマートフォン向きの別の仕様を提案しました。

Q.市役所の現場ではIT化は進んでいましたか。

― 私は生活保護のケースワーカーで担当地区の約100の世帯を1人で担当していました。ご本人たちのお困りごとを聞きながら、ADL(日常生活動作)が落ちてきたら介護サービスを紹介する、といった幅広いケアを仲介していました。

〇紙ベースが基本の生活保護の現場

 生活保護の事務処理量はどんどん増えていましたが、システム入力前後のほとんどが紙ベースの手作業でした。ケースワーカーは33人いましたがみんな福祉の専門職です。現場でこそ力を発揮するプロなのにみんなデスクワークに追われていました。役所内はすべてが紙ベース、紙だらけです。書類も紙で保存しますので一人で書架一つ分のスぺースを使っていました。一度、自分の作業時間を計ってみたことがありますが、二穴ファイルに資料を挟む作業に一番時間を費やしていました。。

〇機械化を考える余裕がない・・

 生活保護では申請者が申請書や申告書を何枚も書く必要があります。これは端末に自分のカードをかざすと氏名や住所などの基本情報が自動反映されるしくみなどITを使うとずいぶん簡素になります。中にはご高齢で手を震わせながら書類を何枚も書いている方がいます。職員も書き終えるのをじっと待っています。
 それで私は「もっと機械化できないか。事務処理を軽くして、本当に人がやるべきところにリソースを割けないか」といつも考えていました。そんな時にエンジニアの方と話す機会があって、「AIなど素晴らしい技術があるのに役所はその恩恵を全く受けていない」と知り、ショックを受けました。その後、今のアスコエ社とご縁が繋がり、現在に至っています。転職に際しては悩みましたが、市役所を中から変えるか、外から変えるかの違いだろうと考え、転職しました。

Q. 全国的に行政DXの機運が高まっていますが、役所の中でDXを推進している方々にどういうアドバイスができますか?

― 最終的な理想形は、マイナンバーで必要な情報が紐づけられ、自動入力で計算されるしくみだと思います。しかしそれを待たなくても外部のプロに相談すればある程度はテクノロジーを使って事務処理がもっと楽にできる。なのに役所の現場ではひたすらエクセルを駆使するなど自力で頑張ろうとします。役所は自前主義、「自分たちだけで頑張って何とかしよう」、「自分たちで考えられるイメージの中で何とか処理しよう」と考えがちです。しかし外部のデジタルのエキスパートの知識・知見を活用したら、もっといろいろなことができるのです。

【例1:帳票入力システムの活用】
 例えば生活保護制度の収入申告書のように様式が決まっているものは、毎回の申請の時の入力事項がデータ化できるはずです。収入申告書の記入のためにわざわざ役所に来られる方が1ケースワーカーあたりで月に10名ほどおられました。しかし事前にデータ化しておけば住所や氏名を毎回書いていただく必要はありません。前回の情報を引っ張ることもできると記入漏れを防げます。データの入力はケースワーカーが聞き取ったうえでタブレットに入力し、ご本人は確認、電子署名だけとすることもできます。
 さらに利用者にアカウントを発行すれば、郵送や来庁で提出していた書類もスマートフォン上で提出可能にできます。このようにWebで申請書の作成ができる機能はそれほどコストもかからないのでお勧めです 。さらに既存の生活保護システムとの連携ができれば、収入申告書に入力された情報を認定情報に引っ張ることもできます。するとこれまでケースワーカーが手入力していた項目の一部も確認するだけで済みます。

【例2:職員のための制度ナビゲーション】
 生活保護業務は多岐にわたり、職員は制度知識の習得に時間がかかります。これもいくつかの質問に答えていくと制度適用可否の判定や適用可能な制度のリストが上がってくる検索システムを作るとよいと思います(ナビゲーションシステム)。特に補装具の基準確認など項目が多く探すのが大変なものに適用すると便利でしょう。ナビゲーションシステムは民間にはよくある仕組みなので行政機関でも使えるはずです。効率化だけでなく計算ミスなども減ります。

Q.自治体のDXはどこから手を着けるといいですか。

― 自治体では首長や管理部門、特にDX担当セクションは改革の必要性を感じています。でも福祉部のような現場にはITとの接点があまりありません。しかし現場の課がやりたいと言わないとDXは進められない。現場の職員は業務フローは熟知していますが、何を自動化・機械化すればいいかはピンと来ない。民間のエンジニアが1週間ケースワーカーと行動を共にして、どのような活動をしているかを見てもらうと、いろいろな改善点に気付くはずです。逆に役所の職員も民間のIT企業などで半年くらいインターンとして仕事をすると、気が付くところがあるのではないでしょうか。あとは小さなことでいいので「便利になった!」を体験できるシステムをまず導入し、成功体験を得てほしい。行政職員がデジタル化による感動を体験することが必要だと思います。

出典(2020年12月28日、YAHOO!ニュースhttps://news.yahoo.co.jp/byline/ueyamashinichi/20201228-00213849/