GovTech(ガブテック)|Society5.0を実現するための「政府」×「テクノロジー」

GovTech(ガブテック)

デジタル技術を活用したあらゆる事業分野の改革(xTech)が進むなか、国や地方自治体が提供する行政サービスにも最先端のデジタル技術を活用しようという「GovTech(ガブテック)」の取り組みを解説します。さらに日本政府が喫緊の課題として取り組む背景や世界および国内での先進的な取り組みについても紹介します。

「GovTech (ガブテック)」とは

「GovTech (ガブテック)」とは
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まずは、「GovTech (ガブテック)」という言葉について紹介します。

「GovTech (ガブテック)」という言葉を生んだ「xTech(クロステック)」

進化を続けるデジタル技術の活用によって、人々の暮らしや働き方は大きく変化してきました。既存のビジネスにAIやIoT、ビッグデータ分析などの先端技術を導入することで、市場環境の変化に対応した画期的な製品やサービスが生まれ、ビジネスモデルの変革が進んでいます。こうした動きが加速するなかで「xTech(クロステック)」という言葉を耳にするようになりました。掛け合わせるという意味の「x」と「Tech(=Technology)」をつないで、「既存産業と先端技術を掛け合わせることでイノベーションを起こしていく動き」を表しています。

金融や教育、医療、農業、不動産、スポーツなど、幅広い業界や業種、分野で「xTech」の動きが見られますが、ここでは金融業界と農業分野を例に「xTech」について紹介します。

金融|FinTech

Finance(金融)とTechnologyを掛け合わせた造語です。オンラインバンキングやキャッシュレス決済の実現など、金融業界にはICTの活用によってもたらされた成果は数多く、仮想通貨やクラウドファンディングなどもFinTechを活用したサービスです。「ロボアドバイザー」と呼ばれるAIに、資産運用のために金融商品を選定させるサービスも提供されています。

農業|AgriTech

Agriculture(農業)とTechnologyの造語です。ドローンを活用した農薬・肥料の散布や農地の状況把握、ICTによる農作物の生産管理、農業機械の無人化など、農業分野でもデジタル技術の活用が進んでいます。

「GovTech(ガブテック)」は、「政府×テクノロジー」

幅広い業界、業種、分野で「xTech」の動きが見られるなかで、国や地方自治体が提供する行政サービスにも最先端のデジタル技術を活用しようという取り組みを「Government(政府)」と「Technology(技術)」を掛け合わせて「GovTech(ガブテック)」と呼んでいます。

日本政府は、日本社会が目指すべき未来社会の姿を「超スマート社会」と名付け、その実現に向けた取り組みとして「Society 5.0」を推進しています。日本社会のデジタル化推進を語るときには、さまざまな用語が使われますが、たとえば「スマートシティ」とは、まちづくりにIoTやAIなどの先端技術を取り入れ、社会課題の解決と新たな価値の創出を両立させる「Society 5.0」を先行的に実践する場となります。

また、行政サービスの変革を目指す取り組みとして、「行政DX(自治体DX)」「デジタル・ガバメント」という言葉も使われていますが、「GovTech (ガブテック)」はこれらの同義語と解釈してよいでしょう。

日本政府が喫緊の課題として取り組む「GovTech (ガブテック)」

日本政府が喫緊の課題として取り組む「GovTech (ガブテック)」
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次に「GovTech(ガブテック)」による行政サービスの変革が求められる背景について見ていきます。

「デジタル化・IT化」が目的から手段へ

2001年の「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(通称:IT基本法)」の施行以降、日本政府は行政サービスの「デジタル化・IT化」を推進してきました。

しかしながら、少子高齢化による生産年齢人口の減少、人々のライフスタイルの多様化、最先端技術の導入による国際間競争の激化など、社会環境の劇的な変化のなかで国や地方自治体が抱える課題は増え続け、コスト削減や業務効率ばかりを重視する従来型の取り組みでは、変化に対応した行政サービスの提供がますます困難になっていくことが予測されます。

2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」では、それまでと同様の「デジタル化・IT化」を推進した場合に日本社会が直面する課題を「2025年の崖」と称して警鐘をならしました。同レポートでの提唱を機に、たんなる「デジタル化・IT化」を目的とするのではなく、「デジタル化・IT化」を一手段として行政サービスを見直して「新たな行政サービスの創造と品質の向上」に取り組むべきとする議論が活発になってきています。

行政を取り巻く環境変化が進むなか、デジタル技術を活用した社会構造の変革は喫緊の課題であり、その先にある新たな行政サービスの創造を見据えたものが「GovTech(ガブテック)」なのです。

「GovTech (ガブテック)」の実行計画

日本社会が目指すべき「超スマート社会」の実現に向けて、政府は数々の方針や実行計画を発信しています。「GovTech(ガブテック)」の方向性や具体的な取り組みを理解するために、以下の記事もご参照ください。

行政DX・自治体DX|行政・自治体にとってのDXとは?

デジタル・ガバメント|日本の「IT化戦略」の課題を解決する「デジタル・ガバメント実行計画」とは?

「GovTech (ガブテック)」への取り組みは世界中で行われている

「GovTech (ガブテック)」への取り組みは世界中で行われている
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エストニア|行政手続きの99%がオンラインで完結

エストニアは、バルト海の東岸に位置する人口約133万人(2021年)の小さな国です。旧ソビエト連邦の崩壊直前の1991年に独立を回復し、政府と市民が一体となって電子国家として行政の再構築に取り組んだことから、現在では「ガブテック先進国」と呼ばれています。

すべての国民にIDが割り当てられ、行政手続きの99%を24時間・365日、インターネット上で完結させることができます。また「eレジデンシー(e-Residency)」と呼ぶオンライン上の居住権を外国人に提供し、自国民に準ずる行政サービスを提供しています。これに登録した「e市民」はエストニアで起業することができ、スタートアップ企業の支援・育成に大いに役立っています。

シンガポール|官民一体でガブテックを推進

1965年にマレーシアから独立したシンガポールは、狭小な国土と乏しい資源という厳しい状況下での国家運営を余儀なくされました。それまでの労働集約型の産業政策を改め、知識集約型の高付加価値産業への転換を進めるために、ICTを経済成長の牽引力とする「スマートネーション構想」を発表。行政手続きの電子化による効率化や利便性の向上を実現しています。

さらに、行政の抱える課題に対して、民間企業の提案やアイデアを受け入れるしくみを導入するなど、官民一体となったGovTechの推進によって、持続的な経済成長を実現する環境を整えています。

神戸市|イノベーション専門官が行政と企業の橋渡し役に

神戸市では「GovTech(ガブテック)」をスタートアップ企業との協働で進めることで、行政課題の解決に努めています。2018年度にスタートした「アーバンイノベーション神戸」では、各部署が抱える課題を公開し、新たなサービスの共同開発に意欲のあるスタートアップ企業を公募。選定された事業者と担当部署が一体となって開発から実証実験までを進めていきます。

加えて「イノベーション専門官」として採用した民間出身者が行政職員と事業者との橋渡し役となることで、両者のコミュニケーションを円滑化。これまでに公開した24課題のうち70%以上が解決につながり、40%以上が行政による調達に至ったという結果が出ています。

つくば市|産学官連携で積極的に開発・実証実験

つくば市では「つくばスマートシティ協議会」を設立し、産学官連携による新たな社会サービスの実現に取り組んできました。2019年度には、バス乗降時の顔認証によるキャッシュレス決済の実証実験などを実施。「キャンパスMaaS」「医療MaaS」といった公共交通サービスの開発にも取り組んでいます。

また、2017年度から革新的な技術やアイデアで社会課題を解決する「Society5.0の社会実装に向けたトライアル(実証実験)」を全国から公募し、優れた提案を全面的にサポートしています。2020年には、スマートフォンから投票が行える「ネット投票システム」が採択され、実証実験も行われました。その結果、投票までにかかる時間は1~2分程度、カードリーダー等の制約を受けず、場所・時間にとらわれない投票が可能となることが実証されました。

デジタル技術を活用した行政サービス改革を「GovTech(ガブテック)」と呼び、それによって実現される行政府が「デジタル・ガバメント」。さらに、国と地方、官と民との垣根を取り払い、それらの連携や協働のもとに実現されるべき未来社会が「Society5.0」です。それぞれを正しく理解することは決してかんたんではなく、その難解さが一連の改革を停滞させていくのではないかとも危惧されます。ただし大切なのは、未来に向けて歩みを止めないこと。デジタル技術は間違いなく進化を続け、その利用環境も世界中に広がっていくことは確実なので、それらの活用によって進化する行政サービスを、利用者である市民一人ひとりが今日から実感できるように、小さな改革を積み重ねていくことが大切なのだと感じています。