ユーザーエクスペリエンス(UX)|ビジュアルや機能だけでは実現できないUXの本質とは?

ユーザーエクスペリエンス(UX)|ビジュアルや機能だけでは実現できないUXの本質とは?

ユーザーエクスペリエンス(UX)とは、製品やサービスの利用者が得ることができるあらゆる体験のことです。今回は、UXの定義やUI・ユーザビリティとの違い、UXが重視されるようになった経緯やその背景などについて解説します。

ユーザーエクスペリエンス(UX)とは

ユーザーエクスペリエンス(UX)とは
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ユーザーエクスペリエンス(User Experience:UX)の直訳は「利用者体験」。製品やサービスによって利用者が得ることができるあらゆる体験を意味します。米国の認知科学者、ドナルド.A.ノーマン博士が提唱した概念で、ノーマン博士がヤコブ・ニールセン氏と共同で設立したコンサルティング会社、Nielsen Norman Groupのサイトでは、以下のように定義しています。

「ユーザーエクスペリエンス」には、エンドユーザーと企業、あるいはそのサービスや製品とのやりとりのあらゆる側面が含まれます。

Nielsen Norman Group

ノーマン博士は、「ユーザーエクスペリエンス」は顧客が望む製品や機能を提供するだけにとどまらず、それを所有したり利用したりすることの喜びや感動を生み出すものでなければならないと述べています。

さらに、企業が高品質な「ユーザーエクスペリエンス」を実現するためには、エンジニアリングやマーケティング、グラフィカルおよび工業デザイン、インターフェースデザインなど、複数の分野のサービスをシームレスに統合する必要があるとしています。

「使いやすさ」や「わかりやすさ」ばかりではなく、その製品やサービスの存在が利用者の積極的な行動を促し、利用者の欲求を「楽しく、心地よく」実現することを目指した概念です。

UXピラミッド
UXピラミッド

UI、ユーザビリティとの違い

「ユーザーエクスペリエンス(UX)」との関連が深く、同じような意味合いで使われる言葉に「UI」や「ユーザビリティ」がありますが、厳密には解釈が異なります。ここでは「UX」「UI」「ユーザビリティ」の違いについて整理します。

「UI」は、ユーザーインターフェース(User Interface)の略で、利用者との接点を意味し、利用者の目に触れるすべての要素を指します。たとえばWebサイトを利用するときには、画面上に配置された「メニュー」や「リンク」などの表示を使って必要な情報を得ようしますが、これらすべてが「UI」です。

「ユーザビリティ」は、製品やサービスの使い勝手を意味します。Webサイトを利用するときには「UI」を利用しますが、この「UI」の配置や大きさ、色づかいなどによってその使い勝手は変化します。使いやすいWebサイトを設計しようとする場合には、「ユーザビリティ」を意識する必要があります。

「UX」は、製品やサービスによって利用者が得ることができるあらゆる体験を意味します。Webサイトを利用したときの体験そのものが「UX」であり、優れた「UI」デザインによって「ユーザビリティ」の高いWebサイトを設計することができれば、楽しくて心地よい「UX」を提供することができます。

UX、UI、ユーザビリティの関係
UX、UI、ユーザビリティの関係

ユーザーエクスペリエンス(UX)が重視されるようになった理由

かつては「モノをつくれば売れる」そんな時代がありました。そこから徐々に、他社の製品やサービスとの差別化を図るために、機能や性能、価格面などをアピールして、購買や利用につなげようという動きが見られるようになっていきました。そして現在では、「ユーザーエクスペリエンス(UX)」が重視されるようになったといわれています。「UX」が重視されるようになった背景について見ていきましょう。

製品・サービスの機能・特長の差別化が困難

社会が豊かになり、必要なモノや情報をいつでも手に入れることができるようになりました。一方で、さまざまな技術革新によって、製品やサービスの機能や特長だけでは他社製品との差別化ができなくなってきたことで、「UX」がクローズアップされるようになりました。

デバイスの進化による利用シーン・環境の多様化

スマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスの普及が進むなか、人々が製品やサービスに関する情報に触れる接点も多様化しています。製品やサービスの提供側は、あらゆる利用シーンや環境を想定し、それぞれに合わせた利用体験を提供することを重視するようになってきました。

インターネットの普及による購買行動プロセスの変化

インターネットの普及によって、製品やサービスの購買行動の主導権は、その提供者である企業から利用者である消費者へと移行しています。検索エンジンを利用(Search)して、消費者は能動的に製品やサービスに関する情報を入手し、遷移先のWebサイトの利用体験を共有(Share)することによって、次の購買行動が誘発されます。

AIDMAからAISASへ。2つのS(SearchとShare)が購買行動プロセスを大きく変化させ、「使いやすい」「わかりやすい」「楽しい」などの体験が、購買行動を左右するようになっています。

AIDMAからAISASへ
購買行動プロセスは、AIDMAからAISASへ

ユーザーエクスペリエンス(UX)の本質とは

「UX」をよくするためには、「ビジュアルデザインが重要だ」という考えがあれば「ユーザーインターフェース(UI)こそ大切だ」という考え方もあるでしょう。しかしWebサイトなどを設計・構築する際に、そうした一面的な考え方だけで、持続的な「UX」の効果が得られるわけではありません。

たとえば、ある商品が急に必要になったときの購買行動を想定してみます。最初の行動は、おそらく検索エンジンにその商品名やカテゴリを入力することでしょう。そこからあるECサイトにたどり着き、注文を終えてすぐに目的の商品を手に入れることができます。最終的には「うれしい」「満足した」という感情が残り、このECサイトをまた使いたいと思うことでしょう。これが「UX」の効果です。

ここに至るまでには、サイトが見やすくて使いやすかったという体験があり、在庫が揃っていてホッとしたという安堵があり、きちんと梱包された商品が希望した日時に配送されて信頼が生まれます。このように、いくつもの事象が重なった多面的な体験が「UX」の本質だといえるでしょう。

行政サービスにおける「UX」の重要性

行政サービスにおける「UX」の重要性
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「デジタル・ガバメント実現のためのグランドデザインについて(討議用)」では、2030年の社会・技術を念頭に、行政サービスあり方と政府情報システム・データ整備の方向性を以下のようにまとめています。

2030年に予測される行政の課題

グローバル化やダイバーシティ化の促進にともなって、国民の暮らし方や思考の多様化が加速するといわれている一方で、超高齢化社会により、公共を担う職員数の削減や税収低下など、行政のリソース(資源)の減少が予測されています。

行政リソースの充足・不足にかかわらず、個人のQoL(クオリティオブライフ)を向上させるために、国民一人ひとりに寄り添った仕組みがより求められる社会がやってきます。

デジタル・ガバメントを支えるシステム・データの整備に「UX」は不可欠

同レポートでは、縦割り・提供者目線の行政サービスから、国民一人ひとりに寄り添った行政サービスに転換するために、「実現のためのシステム・データ整備等の4つの基本原則」を掲げています。そのひとつが「ユーザー体験志向」つまり「UX」です。

「ユーザー体験志向」を実現するために打ち出している方向性は以下の4つです。

  • ペルソナ活用によるUI/UXの多様化、使いやすさ向上
  • API活用による民間サービスとの融合
  • デザインシステムの活用とブロック化
  • マーケティングの活用と継続的なサービス改善

とくにペルソナ活用においては、マス層である高齢者のペルソナをどう設定するかが大きなカギです。従来の「高齢者」「スマホが使えない」など平均的な利用者想定から、より踏み込んで細分化したペルソナ設定に基づいたUI・UX設計が必要とされています。

利用者の欲求を「楽しく、心地よく」実現するためには、利用者の行動やその背景、真に求めていることをシミュレーションしたうえで、利用者の期待を超える体験を綿密に設計することが求められています。とくに「リソース不足」が近い将来、確実に訪れる行政にとって「UX」は、国民に利用されるシステム・サービスを構築するために必要不可欠な視点といえるでしょう。